田舎で野菜のある身分になったらやりたかったことのひとつはたくあん作りです。軒先に下がった立派な大根たちが、いい具合にしわがよって、大きな漬物樽に入れてもらい、塩の効いたカリカリのたくあんになり、冬の食卓を潤す情景は、それだけで優れた絵本のようで、憧れが募ります。
で、立派さは十分とは言えないものの、大根を収穫したし、吊るしてみたらあっという間にバリバリに乾いたし、塩と昆布と入れて、葉っぱも一緒に漬けて、きっとたくあんになることを信じて作ってみました。リンゴの皮も入れてみて、乳酸発酵を促しました。深い考えもなく。
しばらくして味見してみたら、カリカリどころか歯がガリガリしそうな硬さで、しょっぱいをはるかに凌駕する塩っぱさと発酵した酸っぱさが相まった濃い味で、安心の絵本とは程遠い仕上がりでした。あまりに適当だった一年目の実態です。なかなか食べる気がおこらずにいるとあっという間にカビてくるし、仕方ないので洗って細かく刻んで炒めもののアクセントに使いまわしておりますが、それってたくあんの姿なのか、どうも申し訳ないことをしました。
いつか誰もが安心して毎日食べたいようなたくあんが作りたい。そんな私のたくあんへの遠い憧れが通じたはずもないけれど、地元で食事処を営む方からたくあんのおすそ分けを頂く機会に恵まれました。うっとりするほど立派な大根が、柔らかくジュワッと漬けられています。外はカリッと中はジュワッと、まるで理想のたこ焼きか唐揚げのようですが、その食事処は唐揚げが一番人気なので、やはりプロは違うのです。まさに毎日食べたいたくあんがここにありました。
たくあん上手への道は始まったばかりです。恵まれた感動を忘れずに、大根作りも干し方も漬け方も、毎年毎年一歩一歩登っていきたいものです。