勇敢なる有閑なる優な感じの自由刊行。続

三重県松阪市の端っこにある飯高町で農的生活を営む六人家族のお母ちゃんです。縁もゆかりもない移住をご機嫌に続けていけるのは、尽きないチャレンジ精神と、おおらかな地域のおかげです。地域に支えられる子供たちとの暮らしや、ここで発見した限りない素敵なことを、ちょっとずつ発信していきたいです。

母と娘のハイファンタジー

今週のお題「読書感想文」

 

 つい最近、長女が生まれて12年が経ちました。なんだかとても大きくて切ない仕事を成し遂げた感じがします。私は物心ついて以来絶えず読書愛好家ですが、大人の小説よりむしろ児童やティーンズ向け小説を好むほうです。殺人とお色気が刺激的過ぎるという理由もあり。なので子供の誕生・成長と共に堂々と子供の本を読み直すことがなによりの楽しみでした。子育ての大義名分で子供に寄り添う絵本を選び、民話を読み語り、常にアンテナを張って、娘の読書より2,3歩先を進んでいつも彼女が本を選ぶのを見守ってきました。小学生になってすらすら読めるようになってからも、娘が近いうちに興味を持ちそうな本を調べておき、折に触れて薦めることで、気に入れば同じ物語を共有してきました。読書はとても個人的な自由な行為ですが、何を読もうかなというとき、身近な人のおすすめがあることは結構大事なので、いつも何かは薦められるように準備をしてきました。ハズレルこともあるけれど、気に入ってもらえたらお互い嬉しいし、捉え方の違いを楽しむこともできます。自分が昔読んできた本だけでなく、ずっと後に生まれた名作を見つけては喜びを共にする、そんな寄り添い方をしてきたのです。

 

 そんな読書家母娘の幸せな期間もそろそろ終息してきました。なにせ私の有閑っぷりが落ちたのもあり、娘の読むスピードがあまりに加速したのもあり、もうとても追いつかないのです。こちらが気になるシリーズの一冊だけしか読んでいないうちに娘は全巻読破なんてこともあり、導いてきた子を追うようになってしまいました。子供の成長はなんと早く眩しいことかと切なくてたまらないですが、親冥利に尽きますね。それに今まで読んできた数多くの共通で好きな本があることで、暮らしを共にする以上に心がつながっている感覚があるのです。どうせならもっとずっとつながっていたいですが、同世代の子に比べるとどうも幼い娘もそろそろ巣立つ段階に入らねばならないし、いつまでもしがみつくのもカッコ悪いので、自戒の時期です。もちろんこの先もお互いサラリとすすめ合う読書習慣になるのでしょうが、もう導こうとしなくていいかなとやっと思いました。なぜならどうしても共有したい物語を読んでくれたからです。大きな大きなファンタジーに共にときめくことができたから、伴走人生はひとまず満足です。

 

 娘とどうしても共有したかった最高のファンタジーはこのシリーズ

 

 第一作目の『精霊の守り人』が刊行されたのが1996年

そこから守り人シリーズの10冊目『天と地の守り人』下巻が出たのが2007年

番外編が2冊2008年と2012年に。そこからさらに時間が経ってから2018年に『風と行く者』という外伝が出ています。

外伝の間にも著者は他の物語もぐいぐい書かれており、もう本当に尊敬と感謝しかない上橋菜穂子さんです。同じ時代にこの方が活躍されてくれているだけで、今の時代はいいなと人生を肯定できるというものです。

 

大人気シリーズだけれど独特の世界観があるこの物語。私がハマったのが娘が幼稚園の頃。待つこと五年して娘が4年生くらいからたびたび勧めていたのですが、なにせ分厚い本です。深そうな物語であることは読む前から伝わります。慎重派の彼女はなかなか踏み込めず保留にしてあったのが、6年生の夏に一気に読み始め惹きこまれ、あっという間に読破してしまいました。夢中になったときの集中力は恐ろしいものがあります。

 

学校司書さんが同じ作者の別シリーズをすすめてくれたのがきっかけになりました。

 こちらもたまらなく大好きですが、「守り人」より成熟した描写がちらほらするので、娘にわかるか懸念がありますが、またファンタジーにぐいぐい惹きこまれていくのでしょう。今からこれを読めるのはうらやましくもあります。

獣の奏者 完結セット 全5巻

獣の奏者 完結セット 全5巻

 

 

上橋菜穂子のファンタジーはいつも、世界が一枚岩ではないことを架空の物語として丁寧に書き込んでくれているのが魅力です。デビュー作からずっと、多数の人々の暮らしと表裏一体に生きる別の人々の暮らしがあり、人でないものの暮らしもあり、反発したり混じったりしながら、主人公たちが自分の世界を見る目がどんどん変わっていきます。土地・種族・立場など様々な要素が絡み合って、時代によってうねりながら今をどう生きていくのか。登場人物はみな葛藤し、心身鍛えられて未来を探っていきます。

 

 とにかく「守り人」では短槍使いの主人公、バルサの戦いっぷりがかっこいいです。サバイバルの術を駆使して、ギリギリの交渉事もこなし、超人なのに人一倍傷付いていて生き物らしい描写に舌を巻きます。大きな物語、幾重にも絡み合う壮大な物語の中で、個性を失う登場人物が一人もいないのも圧巻です。わりと有名な作品でもずっと活き活きとしている登場人物はメインのほんの数人で、後は物語が進むにつれ無個性というか、貼り付けられた描写になってしまうことが多いのですが、「守り人」世界の人たちはみなその世界の中で生き続けています。思わぬ動き、でも最もな成長があったり、一人一人に本当に息が吹き込まれているのです。国の歴史があり種族の歴史があり一人一人の歴史が織られたところにスッと光を当てるのが物語です。

 

 このシリーズは10冊続いてはいるのですが、全部が同じ切り口で続いているのではなく、タイトルごとにしっかり完結しながらも重なってつながっているところがまたいいです。壮大な漫画を読み返すときはなかなか途中からだと入りにくいけれど、この本は気になった一冊だけ取り出して読んでも消化不良になりません。まあ一冊読んでしまうとドキドキが戻ってきてあれもこれも読み返したくなってしまうのですけどね。

 

 読書感想文と言いながら、あらすじも読んだ感想もない総評だけになってしまいました。読後感としては「もっと強く賢く優しくなりたい」です。いい物語に触れたときはいつも同じ思い。心躍る読書体験があるからこそ、心を磨くことができる。娘がどう受け止めたかは詮索しておりませんが、バルサの強さに憧れ、国々の存続にハラハラしていた彼女はこれからもきっとまっすぐ育ってくれるだろうと思います。運命を自分で作ることができるでしょうか。現実の人生が波乱万丈である必要はないけれど、もしこの先未来がどうなっても、腐らずあきらめず自分を偽らず生きていくために、抱えきれないくらいのハイファンタジーを共に楽しめたことに感謝しています。