勇敢なる有閑なる優な感じの自由刊行。続

三重県松阪市の端っこにある飯高町で農的生活を営む六人家族のお母ちゃんです。縁もゆかりもない移住をご機嫌に続けていけるのは、尽きないチャレンジ精神と、おおらかな地域のおかげです。地域に支えられる子供たちとの暮らしや、ここで発見した限りない素敵なことを、ちょっとずつ発信していきたいです。

カハダヲタベルの聞き書きをして

お題「読書の秋」今週の、ではなくなってしまいましたが、いつかのお題でした。

実際秋は農繁期だし行事も多いし、読書に向いている気はしませんけどね。

 

もう一年半程前から、飯高町で動いている「カハダヲタベル」という企画があります。

地元の食べ物にまつわる話をあちこちから集めて、小冊子にして田舎暮らしを楽しむツールにしようとの企画で、飯高町の中の川俣(かばた)地区で試作ができ、香肌(かはだ)全体に広げて盛り上げようと地味にじわじわ動いています。

 

試作の小冊子『かばたをたべる』は既にできており、これが中々どうして味わい深いものなのです。地域事業で住民配布のみなため、市販品がないのが残念です。

 

かばた地区のホームページもあり、そこでも「かばたをたべる」のことやかちむしレポートという「カハダヲタベル」のための動き、そしてカバタスタグラムなどでも折に触れて紹介されたりネタが集められてたり、少しずつ少しずつ動いていることが報告されています。

www.kabata.site

 

冊子の完成は来年3月予定ですが、地域応援事業として助成金もあり、9月から12月にかけて、松阪市各所4か所で写真展も行われております。田舎での食文化にまつわるほんとうに小さな小さな話だけど、なんだか温かくておもしろい話がじわじわじわじわと発信されています。

f:id:kamenarien:20211025170029j:plain

 

 この「カハダヲタベル」企画の一つとして、聞き書きという大仕事がありました。

 

 子供の頃に戦争を経験したような世代の方たちから、昔の話を食べ物を絡めて語ってもらい、合いの手をいれながら録音して、それを数ページに書き起こすのです。そのまま文字おこしをすると膨大な量になるので、あっちこっち削りながら、いいとこどりをしながら、でもその方がそのまま話している雰囲気が出るように一人称で書いていくというなかなかもう大変な作業でした。ええ、私も担当したのですよ。

 

 1時間以上に及ぶ録音を聞きながら、噛みしめながら、書いては直し、また聞いて直しとしていく作業は、想像以上に骨が折れたものの、すごく楽しくて意義のある仕事でもあったのです。書いたものを読んでみると、お人柄が浮かび上がってくるようで、これは残す価値が高いものだとしみじみ感動しました。ひとつのグループと二組のご夫婦、お一人のを三名分でしたでしょうか。出揃った原稿の全部をまだ拝読してはおりませんが、本の完成がいまからとても楽しみです。

 

 私が担当したのは、亀成園園主の猟の師匠でもある方で、やんちゃだった子供時代の話をたくさん話してくれました。その前に女性グループの話を聞く機会もあったのですが、女性たちが何をどう食べたのかを話すのに比べて、おじいちゃんは何をどう狩ったかに熱を入れて語ってくれたのがめちゃくちゃ面白かったです。食べ方ではなく獲物そのものと向き合ってきた人からの話は、なかなか聞けるものではありません。獣だけでなく川の生き物とも身体を張って勝負してきた少年時代がありありと描けて、一瞬時間がさかのぼったような気になりました。

 もちろん昔の少女たちの話も十分興味深く、参考になる話がたくさんありました。そして話し終えて、「今日はこんな話をしてすごく元気が出た。やっぱり昔の話はええな」と感想を述べてくれたおばあちゃんの笑顔が忘れられません。彼女たちが元気になった分、集中して話を聞いたこちらはどっと疲れたわけですが、語ることで活き活きするのを目の当たりにできたのは私にとっても大きな経験でした。

 

 来春に冊子ができたらぜひまた紹介したいです。そして聞き書きのページはぜひ声に出して読み聞かせに使ってみたいです。YouTubeに挙げる、のはまだ考えておりませんが、今後それをツールにどれだけのことができるか、挑戦は続いていきそうです。

 

 聞き書きは面白いけど疲れたなぁと情けない感想を抱いていた私ですが、仲間の一人はもっと一年を通してじっくり話を聞きたいとすぐにでも動きそうです。いつも親しくしているおばあちゃんから話を聞いたそうですが、やはり話をして活き活きとしてくる姿に胸を打たれたと。

 

 もう叶わないですが、こんなことができるなら、自分のおじいちゃんおばあちゃんの話も聞いて残してみたかったです。実孫からすれば、とんでもない話やろくでもない話が出てきて恥ずかしくて聞いていられないこともあるかもしれませんが、どなたか聞いてくれて残してくれるのならそれもまた嬉しい話です。お父さんお母さんの話も誰か聞き書きしてくれないかな。実の娘はとてもよい聞き役になれそうにないのでできる気がしませんが、親たちの生きた証も残してみたいな。なんだか私もずいぶん柔らかくなったものです。縁もゆかりもなかった地域に飛び込んで来て数年、世代間交流の真っただ中にいさせてもらえる機会を得たことで、血縁のことも見直せるようになりました。

 

 聞き書きに興味を持った方は、参考書籍もありますので、手に取る機会があったら読んでみて下さい。その人の生きた言葉がページから立ち上がってくるような文を自分が書けたらと思うと、なんだかわくわくしませんか?