勇敢なる有閑なる優な感じの自由刊行。続

三重県松阪市の端っこにある飯高町で農的生活を営む六人家族のお母ちゃんです。縁もゆかりもない移住をご機嫌に続けていけるのは、尽きないチャレンジ精神と、おおらかな地域のおかげです。地域に支えられる子供たちとの暮らしや、ここで発見した限りない素敵なことを、ちょっとずつ発信していきたいです。

雨の中、土壌を想う

私が所属していた大学の自転車クラブが今年で50周年を迎えています。

その記念誌を作るという事で、古今東西の部員から原稿の募集がありました。それを機に、自転車クラブについて徒然思う事の他に、「50にまつわるお題」を自分でつけたものも投稿しました。お題出してもらえなかったけれど、自分で設定もできるのがはてなブロガーっぽいなと初めて思いましたよ。

 

自転車旅行と50のお題なので、「また訪れたい町50選」が素直な路線です。

時系列バラバラに、自転車で行ったところもそうでないところもかき集めて短いエピソードを付けて、結構たくさん書きました。

見てもらう人に共感やリンクがあったり、くすぐるような刺激があったら嬉しいなぁとわくわくしてます。

 

訪れたことのある町で、この人生のうちにもう一度行きたいところを日がなずっと考えるのは、ちょっとゆとりのある時の私にはとても幸せな時間でした。通り過ぎただけでもなんだか心に引っ掛かりのある場所を手繰っていって、ともかく50のピンを付け直したのです。この先それらをくまなく訪れるかはわかりませんが、子供を連れて行きたい場所やまったく違う立場で訪れたい場所など、やっぱり旅が好きだなと思えたことは大きな発見でした。

 

さて、個人的に昔の旅を振り返り、未来につなげていく今回のリストアップだったわけですが、いくつかピンを指すのを躊躇う場所がありました。

私が現役で日本の山々を走り回っていたのは20年近く前のことです。19歳から23歳くらいの間に随分あちこちを小汚く走っていました。春も夏も秋も冬も。しんどくて何も覚えていない場所も多いけれど、忘れがたい美しい場所も沢山訪れました。

現在、美しかった場所がみなそのまま残っているかといえば、そうではありません。あまり直視したくない厳しい現実として、再生可能エネルギー開発により失われてしまった風景が多くあるのです。

 

20歳の夏を駆け抜けていた北海道や東北、特に秋田はピンポイントで訪れたいところもありますが、時間をかけて走り抜けるのはなんだかとても怖いです。四国の山々も険しくて何もなくて、それでも人の暮らしがあるところが好きだったのに、大規模開発されていたらと思うとどうにも怖い。冬の能登半島もいつ開発されるかわからないし、丹後も間に合うでしょうか。取り戻せなくなってほしくはない。でもどうなるか、自分はあまりに非力で嫌んなっちゃいます。でもいいなぁと感じた場所を想うことはやめたくない。私にとって現代の生きづらさは人間関係とか経済状態よりも、ただただ国土崩壊にあります。

 

そんな中でもより一層身がきゅっと縮まりそうになるのは、かの熱海です。4回生の冬だったかな。伊豆半島を一人で走っていて、その時の終着点が熱海の坂を上った駅でした。それまで侘しいような雪も降る場所を走っていて、最後に晴れた熱海の町を見下ろして、あまりの観光地に驚きながらもここにも人の営みがあっていいなと思ったのです。昭和の中頃のようにウキウキの新婚旅行で来ることはないにしても、いつか町内会の慰安旅行とかで来ることもあるのかなと未来につなげていた場所なのです。けれど、今そこは昨年の土石流の傷が癒えないままだといいます。険しい坂をどんな勢いで泥水が押し流れてしまったのか。原因は盛り土や雨量よりももっと深いところにあります。

 

土や水の流れに逆らってしまった開発による、自然からの揺り戻し。圧倒的な力で押し流すことが自然が選択したこと。身が縮まりながらも今の人々が学ばなければならないことが熱海にあります。

 

そんなことが丁寧に書かれている、土の中の環境を整えることを仕事にされている方からの大いなるメッセージが入った本をご紹介します。ほぼ出来立てほやほやの本です。

作者は地球守というNPO法人で、環境再生土木の施工をしながら各地の環境改善をコツコツ重ねて、仲間を増やして指導されて、近代工法に警鐘を唱える方です。

熱海の土石流に疑問を持った京都の小学生からの質問に答える形で書かれた本書は、概念と理論と実践がバランスよく、図解も多く、ていねいな土と水と森の解説書でした。

 

菌糸のことと水脈のこと。鎮守の森が担ってきた役割。健康な里山と里海のつながり。

豊かな国土が守られてきたのには確固たる理由があって、それを見失ってしまったからこそ災害が頻発してしまっている。警鐘を鳴らしながらも温かく優しいトーンでの解説は、深く心に入ってきてくれます。

 

あとがきの中で、作者さんは

”美しいもの、息づく大地に身を置いていたい、感じていたい。そんな思いから山旅を始めたはずなのに、ここ十数年は災害被災地周辺の荒れた山々に頻繁に足を向けるようになりました” と綴っておられます。土中が乾燥してしまって立ち枯れの起こるようになった山や、災害跡地の再生などの活動をされておられます。それは本意ではないけれども使命として行われています。国土がどこも健康な土壌であってほしい。人々にもっと土の中のことまで知って考えて実践してほしい。厳しい現実に向き合いながらも絶望せずに環境再生を続けるご活動に頭が下がります。

 

もっと詳しく学びたい方は、最新刊の前身であるこちらもどうぞ。目に見えない土壌に意識を向けて、何かしたいと思ったら小さなことからでも始められます。

 

NPO法人 地球守さんについてもっと詳しくはこちらから。実践の学びのチャンスがあるかもしれません。

chikyumori.org

今私のできることは何なのだろうということを考えるのは、災害や災害の可能性に絶望しているよりよほど建設的です。庭を掘ってみる。落ち葉や枝を集めてみる。山を歩いて土を見てみる。そうやって地球に少しずつ親しめたらいいですね。

 

この夏も雨が続き、台風もやってきています。風力発電開発やメガソーラーによる災害がないことを祈るばかりです。実際に起こってからの反省では辛すぎるので、沢山の人が先に気付くことができたらいいのですが。水がしみこむ豊かな大地で暮らしていきたいですね。