勇敢なる有閑なる優な感じの自由刊行。続

三重県松阪市の端っこにある飯高町で農的生活を営む六人家族のお母ちゃんです。縁もゆかりもない移住をご機嫌に続けていけるのは、尽きないチャレンジ精神と、おおらかな地域のおかげです。地域に支えられる子供たちとの暮らしや、ここで発見した限りない素敵なことを、ちょっとずつ発信していきたいです。

お伊勢参りで一番大事なこと

 三重県に身を置いている者として、お伊勢さんの存在はやはり大きいのです。

三重県大好きな三重県民を象徴する場所であり、ほとんどの観光客が集まるところであり、それでいて実態がよくわからない聖地でもあります。世界に巡礼地は多くあり、どこもなんだか荘厳な雰囲気を持つ場所ですが、お伊勢さんって参拝地だけど建物より周りの豊かな自然が際立ちますよね。それこそが神々の住まう場で、日本という国が守り抜いてきた聖地なのですが、ピンと来ない人も多いです。私も何度も訪れながらあまりよくわかっていませんでした。公式サイトを眺めてもどこが心のふるさとの意義なのかとか難しく考えてしまって、素直に受け止めにくかったのです。

 ところが私には頼れる味方がいました。伊勢で生まれて現在は飯高で暮らし、神宮案内ができるという気の置けない友達がいるので、40歳になった記念にガイドをお願いしたのです。快く引き受けてもらい、もう一人誘ってもらって、個性も意思も強い女三人伊勢巡りをしてきました。

www.isejingu.or.jpお伊勢さんはこの10年くらいで広報活動に力を入れているようで、美しい画像とていねいな解説がいつでも見られるというすごい時代になりました。

かつては「死ぬまでに一度は行きたい伊勢参り」だったほどのすごい場所に、1時間少しで行けるところで暮らしているだけでとても恵まれていますが、近いだけに意識を向けなければ却って見逃してきたことも多そうです。初心にかえっての学び直しが今のタイミングでした。

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 全国の神社の総本山であり、伊勢神宮と呼ばれるのも皇大神宮(内宮)と豊受大神宮(外宮)を中心とした125社の総称であり、伊勢地域に散らばっているお社をまとめて神宮と呼ぶのだとか。これだけでも一神教の考えに比べるとずいぶん不思議ですし、数々のお社は格の違いはあれど、それぞれが役割を果たして、有機的に絡み合ってひとつのまとまりであるというのは、生物多様性の自然そのものですね。細分化ではっきり分けて組織を単純なピラミッド構造にするのではなくて認め合っての融合文化。2000年の歴史を背負ってなお、なんだか未来っぽいのが伊勢神宮の在り方です。

 

 今回、月夜見宮つきよみのみや。外宮の別宮)を初めに参拝し、その後外宮を回ってあちこち参拝してきましたが、ガイドさんが一番熱を入れて教えてくれたのが、外宮で行われている

日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)

という朝夕の神事でした。

 1500年前に豊受大神宮(外宮)が祀られて以降、一日も欠かすことなく行われている神事だそうです。何をしているのかというと、天照大御神のための食事作りとお供えです。

 伊勢神宮は境内の自給自足で食事作りをしており、境内(お伊勢さん所有の田畑や塩田、海までも含む)で採れたお米や野菜、塩や海産物を用いて、毎朝夕その都度火をおこして井戸から水を汲んで、ていねいにどこまでもていねいに神様に捧げる食事をこしらえ、運び、供えています。それは同時に国民への祈りの儀でもあり、天照大御神の光がある日本という国で暮らす民たちが飢えることのないようにと祈りながらの神事なのです。1500年間、雨や雪の時も、戦時中も欠かすことなく祈られ続けてきているのです。

 大神様への捧げものがすなわち国民への祈りである。

神道はどこまでもおおらかで、暮らしそのものだとハッと気付くと、今生かされていることがどれだけ有難いことなのかと驚きました。

 私が今生きていることそのものが、神様たちの願い。

あれ、なんだろ、それってなんだかもう、ヤバいですね(突然の語彙力崩壊)

 

 神宮のHPにある「神宮の自然」というページで、2分半の動画があるのですが、自然の景色がメインかと思えば、かなりの長さを割いているのが塩田での塩作りであり、海の恵みである干しアワビ作りであり、建物や技術をつないでいくための木の伐採という、人々の営みなのです。これにはもう、参りました。

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 神宮境内の樹木を中心とした森は、人が手を加えずありのままに保たれています。その中で大きく大きく育ったくすのきは、まるでトトロ。それに参道の途中にある樹もそのままで、参拝のお宮をぐるりと囲む建設の際にもそこにある樹を伐採することはありません。切ってしまった方が建物は建てやすいし、道も多分歩きやすいとは人の考えです。樹は神々の通り道。樹が優先されている境内だからこそ、良い風が吹いているのでしょうか。なんだか不思議だけどそういえばそのほうがずっといい気がする。神宮ではそういうことが沢山あるようです。

 

 外宮の参拝のあと、せんぐう館にも寄りました。先の遷宮祭の時に建てられたばかりの新しい建物です。HPも気合入れて作られているので、アニメーションなど多くて、さくっと見るにはハードルがあるので時間をかけることをおすすめします。こんなに広報活動にも力を入れられていることが知れることもまた有難いです。少し遠くから拝むだけだった社殿の建築も再現されていますし、宝物のレプリカもふんだんに飾ってあるので、細工物好きや建築好きなど数々の人々の好奇心を満たすことができそうですね。

www.sengukan.jp

 気合の入ったページの最初に掲げられている言葉を引用します。

伊勢神宮は、およそ1300年前から式年遷宮を続けています。内宮・外宮の正殿をはじめ、すべての別宮の社殿、さらに神さまに捧げる品々である御装束神宝を、20年に一度造り替えます。このわが国最大のお祭りには、限りある建造物を単にリセットするのではなく、日本の伝統的な精神文化や技術を後世に残して伝えていく役割も担っています。

せんぐう館は、この式年遷宮に関する様々な情報を展示する博物館です。それは神さまを介した記録庫(アーカイブズ)とも呼べるものでしょう。ぜひこの記録庫の一端に触れ、私たちの源流を見つめ直しながら、未来へと思いを馳せてみてください。“

引用ここまでです。

 最後の一文である「私たちの源流を見つめ直しながら、未来への思いを馳せてみてください」に心を打たれたなら、お伊勢参りは生涯を輝かせるイベントになるでしょう。

 

 ものすごくたくさん歩いて、大きな樹のエネルギーや人々の歴史をめいっぱい感じながら、たくさんのことを学びながら伊勢神宮に触れた日でした。なんだか本当にいろいろなものに感謝します。純粋な日本人ではない私ですが(祖父の一人がアメリカ人なので)、それでもこの国に長く居て、守られてきたことが心から誇らしいです。

 昔は伊勢参りがどれほど人生の一大イベントだったかの片鱗を知るのなら、朝井まかてさんの本がおすすめですよ。女三人伊勢への旅物語。ドラマにでご存じの方も多いのかな。伊勢へはわりとあっさり。

 とりあえず念願叶った伊勢へのお導きでしたが、これはまだまだ壮大な世界の一端に過ぎません。私は幸いにも三重で暮らしており、自力でいつだって訪れることができるのです。冬のうちには一人で朝参りもしてみたいな。しんとした空気の中、どんな音に囲まれることができるのでしょう。

外宮の参拝道。三重フォトギャラリーからダウンロードしました。