勇敢なる有閑なる優な感じの自由刊行。続

三重県松阪市の端っこにある飯高町で農的生活を営む六人家族のお母ちゃんです。縁もゆかりもない移住をご機嫌に続けていけるのは、尽きないチャレンジ精神と、おおらかな地域のおかげです。地域に支えられる子供たちとの暮らしや、ここで発見した限りない素敵なことを、ちょっとずつ発信していきたいです。

おてんば娘、危機一髪

暖かな春の午後、ふらりと敷地内にいる鶏たちの元へ行きました。日々の朝夕の餌やりとは別に様子見といった感じで訪れることはあったりなかったりです。でも何か察するところがあったようで足を伸ばしました。するとある一羽がすごい勢いで駆け寄ってきました。囲い内や小屋におらず駆け寄ってきた時点で彼女は「脱走している」問題児なのですが、近寄って見てもう一つ異変に気付きました。なんか首筋が痛々しいのです。明らかに羽毛が引き抜かれた痕があり、一部むき出しの鳥肌が見えていました。ケンカでもしたのかな、とちょっと気に留める程度でしたが、その原因はすぐに明らかになりました。


その後しばらくして愛犬の昼寝する犬小屋のところに行ってみると、犬の様子がちょっぴりおかしいのです。やたらにすり寄ってきて甘えてくるのに目は合わず、もともと犬は目を合わせることは苦手なのですが、いつもとちょっと違ってなんだかあやしい様子です。ふと近くの地面に目をやると、鳥の羽が落ちています。残骸はなくて羽だけ10枚、いや20枚くらい散らばっています。


落ちていた羽を一枚拾い上げて少し離れたところにいたお父ちゃんに報告しに行くと、しょんぼりして犬が付いてきます。首もうなだれ尻尾も見えないくらいに下げて、打ちひしがれた様子をしています。なんとわかりやすいことか、明白にも程があるとそっちにびっくりしてしまいます。


再び問題の鶏を見に行くと、首とお尻に羽の抜けた痕がありましたが、噛まれた傷もなく、元気に卵を産んでいました。


どうやら逃げ出した鶏が犬のすぐそばまで踏み入れて、追い返されたようです。犬は噛み付きはしたけれど、やっつける気もなかったようですが、飼い主にどう思われるかは気になっていたのですね。


生き物として鶏はすごく弱いです。走るのも速くないし、飛び立つ力もないし、飛び上がる力はそこそこありますが、瞬発力には欠けます。つまり肉食の獣に本気で狙われたらひとたまりもない弱さなのです。でも結構お調子者で、脱走してズケズケと未知の場所に踏み入れることもあり、探すのがわりと大変なこともあります。この日もやめておけばいいのに犬小屋まで呑気に歩いて行ったのでしょう。


目の前をチラチラといかにも弱そうな旨そうなものが歩いていて、犬は何を思ったのでしょう。彼がもう少しアホならば、一発で仕留めていてもおかしくなかったのです。ガブリ、ムシャムシャをやってしまって、その後私の悲鳴が谷間中に響き渡る悲惨な事件になっていてもおかしくなかったのです。でもその時の犬は、飛びかかってしまったものの理性が働いて羽をむしるだけに留めておいたのか、放っておいたけどあんまりチラチラするから追い払おうと足を出したのか、とにかく血管まで至る傷をつけることなく鶏はのこのこ退散したようです。細かいことを推察するだけの力は私にはまだありませんが、接触があったことは間違いないので、犬は余程手加減したのでしょう。


ともかくも無謀にも丸腰で猟犬の目の前まで探検しちゃった鶏は、傷を負うこともなくちょっと痛い目を見るだけで、無事に帰ってきたのです。強運、或いは犬のお手柄、それとも犬が満腹だっただけで次はないのかもしれません。羽を見つけた時は心臓が縮むかと思いましたが、幸い縮まずに済みました。動物の言葉がわからない以上、生き物を飼う上での絶対的な心得といったものはやはりわかりませんが、大事なウチのこたちが皆、今日も元気でいてくれてよかった。時々ドッキリさせられるから余計に、いつもの無事を有り難く思えるのです。