鹿がちっともかかりません。大きいのならひと月に一頭で不足なく食べていけるのに、もう今月初めから冷凍庫はスカスカのまま、カットした野菜ばかりがじわじわ増えていきます。夏野菜が採れ時なので食卓は彩り豊かで一見豪華ですが、たんぱく質をそろえるのに母は必死です。ヴィーガンにはなれそうになく何でも食べたい私は肉が足りないとパワーが出ません。さてどうすべきか。
先日はお客さんが泊まるのにまだかからず、ジビエBBQはあきらめねばなりませんでした。だがしかしうちにご馳走がないわけではありません。なにせ鶏なら沢山いるのです。卵を産んでくれるめんどりは一羽たりとて失いたかないけれど、おんどりはそんなに沢山いらないので時々減らさなければいけません。自分の家の鶏を締めるのは私にもまだ抵抗があるのでなかなか実行できずおんどりがいっぱいになってしまっているので、これはチャンスと腹をくくり、二羽締めました。
ふわふわ元気な鶏を絶命させるのは心苦しくて、しばらく身体がこわばる感じがありますが、羽むしりまで終えるともう食材です。
まだ若い烏骨鶏だったので、古鶏ほどの出汁は出なかったけれど、ほろほろと立派なスープになりました。お父さん自慢のゴボウをたっぷり、中国食材屋で調達しておいたナツメ、クコ、キクラゲを一緒に煮出し、亀成園随一の健康烏骨鶏スープです。この鍋にどれだけの栄養が詰まっているのか、ほとんど塩のみのさっぱり味の裏にどれだけの恵みがあるのか、いつもの食事とは一味違う感謝を込めて、身体に染み渡らせました。
それでもまだたんぱく質への欲求が抑え難かった我々は、次の日川へ釣竿を持って行きました。この辺りには数多の釣り吉がおりますが私は未だ憧れるだけでろくな釣果はありません。ちょっと川釣りが好きなお父さんと体験教育オンパレードの五年生が頼りです。
まず川の石をめくって餌になる虫を探します。ここでは黒くてぷくぷくの虫がわっさりと見つかったので幸先良しです。黒い太い芋虫に足が生えてぬるぬる動く黒川虫はお世辞にも好感が持てるとは言い難いけれど、川魚へのプレゼントとしては上々だし、少なくとも針に刺すときの罪悪感はほとんど持たないので、せっせと集めます。
魚がいそうなのは流れの中心からズレた深み、という基本を押さえ、レッツフィッシングです。自前の短い釣竿なので身体をいっぱいに伸ばして構えます。透けて見えそうなきれいな川にいる魚はきっとあっさり美味しいはず。
子供たちが予想以上にあっさり釣りました。昼間だし騒がしい中だし小さなアブラハヤばかりですが、手応えを感じて引き上げるのは嬉しそう。いくつかポイントを変えてみて10数匹釣れました。
私も竿を借りて同じようにしたのに、ちっとも反応がなかったのはいかに。憧れるばかりで釣り向きではないとは自覚しておりましたが、小学生が三人共釣れるのに情けない姿でした。ここの川は小さな魚が多く、足の角質をつついて綺麗にしてくれるDr.フィッシュらしきこともできるので、大人女性らしく楽しんでおりましたけどね。
メインには不足しますが、狩りが不調なときは漁をしてみる経験ができました。お父さん頼みではなく子供たちが活躍できる食材調達は誇らしいものがありますね。昔と違って今は安全面から子供たちが勝手に川に行くことができない時代ですが、今のうちから一緒に習慣つければ夏も飢えることなく乗り切れるかもしれません。ひと泳ぎした後の新鮮な小魚フライは、なによりのご馳走なのですから。