勇敢なる有閑なる優な感じの自由刊行。続

三重県松阪市の端っこにある飯高町で農的生活を営む六人家族のお母ちゃんです。縁もゆかりもない移住をご機嫌に続けていけるのは、尽きないチャレンジ精神と、おおらかな地域のおかげです。地域に支えられる子供たちとの暮らしや、ここで発見した限りない素敵なことを、ちょっとずつ発信していきたいです。

鹿の王の原作ファンにとっての映画体験

数年前のわりと出てすぐの頃に読んで、人生で他の小説のことは全部忘れてもいいからこれが私の一番好きな物話だ!と強く思ったのが、『鹿の王』という作品です。ダントツの物語名手、上橋菜穂子さんが渾身の力を込めて書いてくれた壮大な壮大なファンタジーは、ファンタジーでありながら全くご都合主義がなくて、それぞれの人物がどこまでも自分の運命に向き合っていく、みんなのための物語です。

 

数年前に読んで、それからなかなか読み返すこともできずにその後の話が出て、それも一気に読んで、いい時代を生きているということを噛みしめていました。

 

私は基本的に一人でオタクでいることを好む、当たり前に寂しいことに満足している人ですが、この2年の間にオタク仲間ができました。中一の娘と、共通の友達(中学生)の3人共、とにかく上橋菜穂子さんが好きという現代では珍しい読書家です。この小さな町に3人のファンタジーオタクがそろうとは、私の人生も明るくなったものです。愛息子も上橋菜穂子は大体読んでいるので、4人か。素晴らしい影響力ですね。

 

中学生の友達はもう卒業となり、県外に出てしまいます。そんな時に大好きな『鹿の王』の映画が公開されていて、しかも昨年から延期を繰り返してのやっとの公開で上映中。いろいろ不安はあるけど行ってみようということになりました。いざオタ活!息子はややこしいから置いていくことになり、別の友達2人が同行して、山から降りてはるばる街中まで行ったのですよ。

 

映画『鹿の王 ユナと約束の旅』公式サイト

公式サイトには以下の記載があります。

❝「鹿の王」、それは仲間のために命を懸けて戦う者たちのこと―― 。
もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『君の名は。』の異才アニメーター安藤雅司が監督デビュー作で挑んだのは、
2015年に本屋大賞を受賞したものの、その圧倒的スケールの物語から長らく映像化は不可能と言われきた
ファンタジー原作「鹿の王」(角川文庫・角川つばさ文庫KADOKAWA)。
過酷な運命に翻弄される登場人物たちと、謎の病の壮大な戦いが日本アニメ界最高峰のスタッフによって描かれる。
今この時代だからこそ観るべきエンターテインメント超大作がここに誕生!❞

 

これを見ると、この映画は原作『鹿の王』の圧倒的スケールを映像化することに挑むためのアニメ、ということになります。ああ、そうだったのか。私はてっきり制作側もみんな鹿の王オタクだと思って観に行ったもので、そうではなく壮大なアニメを作りたいという意図だったのです。

 

そして観に来る人の想定も「小説は長すぎて読むの大変だけど、評価高いみたいだし、映像でストーリーわかるならそのほうがいいな」というかんじ。

 

というわけで

原作ファンからすると、あれ?時間縮めるためとは言え大筋まで違うがな。

初見の人にすると、わぁ、最初からちっとも設定わからん。置いてきぼり感半端ないわぁ、むっずー。

 

映画化ってなんなのー! 制作者は満足していたとしても、原作者はどう思ってるのー!これが鹿の王って思われたらどうするのー!

と、久々に混乱が限界まで達した、映画館道中でした。

 

シネコンが当たり前、コンテンツを選ぶことが当たり前の今の時代は、映画作りはストーリー作りというより話題作りです。タレントさんにお金をかけて巨額の宣伝費を投入した映画が話題になります。それもそれで映画がマニアなものではなく、一般のより気軽な娯楽となり、更に沢山の作品が作られるようになることで、地方がロケ地として選ばれて盛り上がったりといった効果はとても大きいです。映画館の大きな箱を埋めるためにいつもたくさんの作品が必要なので、短時間で撮られるものも多いです。漫画の実写化などを歓迎する人も多いので、消費されていくのも仕方ないことです。

原作ファン

クリエイターファン

タレントファン

ロケ地関係者

いろんなところでの話題作りをしていかなくては、作る甲斐がないのかもしれません。

 

でも、原作と全然違ってキャラクターだけ使ったのなら、原作ファンは違和感だけ残るし、詰め込み過ぎたなら「ちんぷんかんぷんでつまらない」という感じになるのは当然の流れだし、なんというか、クリエイターそれぞれの自己満足度が高い作品だなということを強く感じてしまいました。

 

映像はとっても綺麗でした。獣たちも植物も。

キャラクターデザインも細部まで考えられていて、すごい表現力でした。

音楽は本当にレベルが高かったです。

でも、なんだかツギハギだったことに何とも言えない苦しい感じがありました。

 

うん、やっぱりもう一度原作を読もう。色々な人がこれでもかこれでもかとツギハギした作品ではなく、たった一人の作家が渾身こめて作り上げた完璧な作品を読もう。

一対一で向き合うことをもっと大切にしよう。映画を観て私が得たものは、更なる孤独感でした。

 

ちなみに私の住む飯高町の奥の方から映画館までは1時間半かかります。

小学校2年生からこの地で暮らす娘にとっては今回が初の映画館となりました。

これを機に友達と遊びに行く選択肢が増えて、楽しい青春につながればという思いもあって街まで緊張しながら連れて行ったわけですが、私とよく似た思考をする娘は原作とのあまりの違いにしばし茫然としていました。聞いておりませんが多分「やっぱり本を読もう」となっているのでしょう。楽しい青春が遠のいてしまったではないか。孤独なオタクとして田舎に引っ込んでいる未来が見えてしまいましたよ。まあ『鹿の王』という作品自体、独立した孤独な者たちがときどき交錯する様がくっきり描かれている話なので、当たらずとも遠からずかもしれませんね。

 

絶望はせずにまた時々チャレンジはしてみたくなりましたよ。好きな話が、極少数の純粋に物語を愛する人たちによって映画化されるという奇跡の未来もあるかもしれませんからね。